パリの蚤の市の古本屋さん リブレリ・ド・アヴェニュ
2005年の6月にパリへ行った時のことを思い出した。ドイツのデュッセルドルフにいた娘宅を訪れていた時、娘夫婦がベルギーやパリを案内してくれたのだ。ベルギー行きの時は車で案内をしてくれ、パリの時は飛行機で、シャルルル・ドゴール空港に降り立った。「パリで、どこか行きたいところがありますか?」と問われ、「蚤の市にある古本屋さん」と答えた。「蚤の市にある古本屋さん」を何故知っていたのか今は思い出せないが、先ずはセーヌ川で船に乗ったり、セーヌ河畔のブキニストと呼ばれる古本屋を覗いて、なるほどこれは古本屋というよりは観光地の土産もの屋なのだと納得したりした。ビジネス感覚でなく、リタイヤーした人たちの趣味と実益を兼ねて、気ままに店(箱)を開け閉めている。そこで私は古い絵葉書を買い求め、娘は星の王子様の絵が印刷されているトレイを買っていた。
さてそれから地下鉄に乗り、終点のクリニャンクールという駅から歩いて蚤の市の会場に向かった。丁度雨上がりでテントがかなり濡れていたが、広い蚤の市の会場には沢山の人がいた。蚤の市の会場をどんどん突っ切って、そのはずれにその店はあった。写真のように旧倉庫といった感じで、広い店内に色々なジャンルの本が溢れていた。一般書が中心と思もわれた。そこで フランス時代の藤田嗣治などの芸術家と親交のあった「モンパルナスのKIKI(アリス・プラン)」の写真集を買い求めた。彼女は、ナイトクラブの歌手であり、女優であり・モデルであり画家でもあった。 そしてマン・レイの愛人であった。
日本に戻ってしばらくたってからだと思うが「LOVE書店!」というフリーペーパーに鹿島茂さんが、このパリの蚤の市の本屋さん リブレリ・ド・アヴェニュを紹介していた。曰く、店の主人は一見、無愛想だが、広い店内をうろついているコレットという名のキジトラ猫をこよなく愛しているので、この猫をかわいがると途端に愛想がよくなると。私には、この猫の記憶が全くなかった。
ヨーロッパの古書店、とりわけ稀覯本などを取り扱う古書店はこのリブレリ・ド・アヴェニュと違い、閉架式で、買いたい本を伝えると店の奥からとか、地下から商品を取り出して見せてくれるスタイルで、どんなお店だか一度見学させてもらいたかったがだが、買うべき本もないし、私にとっては敷居が高かった。
ブキニストは健在のようだが、今リブレリ・ド・アヴェニュがどうなっているのか分からないが、なぜこんなに古い話を思い出したかというと、鹿島茂さんが同じ「LOVE書店!」というフリーペ-パーの24号にパリの本屋さん第23回に「フランス中古書店の現状」が紹介されていた。フランスでも所得格差が拡大して、超レアーな稀覯本が過激に値上がりをしている。これはパリの不動産価格は激しく値上がりしたからで、ヨーロッパでは、不動産市場と高級古書市場が連動しているのだという。一方一般の古書は値下がりどころか、廃棄処分に回される古書も増えておりその結果、資本力のある古書店が大いにうるおい、そうでない古書店は片端から淘汰されていると記されていた。
この記事を読んで、日本では全く同じ現象とは言えないが、同じような状況にあることは間違いないと思った。新刊書店も古書店も、街からどんどん姿を消している。私の年齢からするとあと何年もこの仕事をする訳にはいかないが、つぶれるのを待つよりは、少しでも長く継続できればと考えている。縮小社会でもある。毎日毎日が、岐路に立たされているのだ。 (2018/5/5)