「内容見本」は、死語なのでしょうか・・・

私は、高校生の頃、よく本屋さんや神田あたりの出版社をたずねて、内容見本や図書目録を貰い歩いたものでした。本に興味があったし、お金は無いし、内容見本を集めて、内容見本に何度も眼を通して、掲載の写真を眺めたり、出版の経緯などを読んだりして感心していたものでした。同じようなことを紀田順一郎さんが、「内容見本に見る出版昭和史」(本の雑誌社刊)のあとがきの中で、述べられていました。今の岩波書店の前あたりにあった、蔦のからまった古い岩波の社屋も記憶があるし、出版社の住所をみて、この出版社は、以前は神田にあったのに、なんて思ったりします。出版社を訪れたのは、小川菊松著「出版興亡五十年」という本を読んだのも、一因かも知れません。この本も出版に関する様々な話が載せられ、大変面白いものでした。

 目下、この内容見本を販売しています。お陰様でこれまでに、色々な内容見本を販売することができました。私ども以外でも、内容見本を販売している本屋さんは、結構みかけますが、「まさか、古い資料が見つかるとは思いませんでした。」などと嬉しいメールを頂くと、私も大変嬉しい思いが致します。

 一方、ネットで内容見本のタイトルを見て、「500円で○○全集が買えるのですか?」との問い合わせを頂いたり、「内容見本てなんですか?」とか「内容見本とは、どんな本ですか?」といったお問い合わせも頂く。そんなお客様には、内容見本とは、出版社が全集や事典などの出版物の宣伝のために印刷したカタログです、と説明させて頂く。さらに、現在刊行中の本の内容見本は無料で入手できますから、集めてみていかがですかと声をかけたりもしています。こういった質問が多いところを見ると、「内容見本」という言葉は、既に死語になってしまったのではないかという思いがしています。ちなみに岩波書店では、「内容案内」という言葉を使用しています。

 内容見本の魅力は、色々あります。例えば、個人全集の内容見本をみれば、その作家の全業績が一目瞭然です。出版社によっては、全集と名前をつけるからには作者の断簡零墨まで、総て収録という編集姿勢のところもあります。また生前本人は、ある作品を全集に収録することを拒んでいたが、その作家の重要な位置づけの作品なのであえてこの作品を収録といったような、いわば楽屋話のような、作家を理解するうえでの重要な話が掲載されていたりしています。

年譜が添えられている内容見本も多いので、実績、経歴が理解でき、さらに著名人の推薦文の内容から、交友関係やら、その作家の作品の特徴を把握することもできます。以前、数名の松本清張のコレクターの方から、清張が書いた推薦文の載っている内容見本を全部欲しいといった注文も頂きました。

また内容見本には、その出版物の出版経緯が語られており、戦争で企画が頓挫していたのを30年ぶりに復活だとか、出版当時の社会背景なども理解できて貴重な参考資料といえます。

 この内容見本を購入される方は、研究者の方、内容見本のコレクター、推薦文を書いている作家のコレクターなどです。 紀田順一郎さんは、「内容見本にみる出版昭和史」で、内容見本を通して昭和の出版史を語っておられます。昨今は、全集の発行が少なくなったし、「豪華内容見本」もあまり見かけなくなりましたが、神田の市場でもたまに、内容見本を見かけますので、在庫のある限り販売して行きたいと思っています。

 内容見本に関して「日本古書通信」に以下の原稿を掲載して頂きました。

日本古書通信 昭和61年7月号(第684号)夢ふくらむ本のかたろぐ

日本古書通信 1993年5月号(第766号)紙屑の山からのめぐり合い

 ▲書物のまほろばTopへ

2006.3.22